オル言。




その扉は、壁に馴染みまるで隠すかのように作られていた。
その扉を見つけたのは、一通り荷物は運び終わり、父が近所への挨拶回りに出かけたため、もう一度これから住むことになる教会を見直そうと歩き出した矢先だった。
父と二人で住むには大きすぎるこの教会には、明らかに長年人が入った形跡のない部屋もいくつかある。偶然見つけたこの扉も、長く使われずに放っておかれたようであった。
薄 汚れた取っ手に手をかける。予想外の重い感触の後、予想通りの錆びて軋む音を盛大に立てながら扉が開く。途端、長い間篭っていた空気が埃と共に舞い上がり 僅かに咳き込んだ。口元を手で覆いながら中を覗き込むが光が射さずよく見えない。壁を探ってみたが明かりのスイッチがある形跡もなく、仕方なく一度自室に 戻り懐中電灯を持ち出した。
白熱球の黄色い光が暗闇を照らす。石造りの壁と階段。下を覗き込めば簡単な祭壇も見える。
「霊安室…か?」
歩みを進めるたびに埃が舞い上がり、降りるほどにかび臭く篭った空気が鼻につく。降りた部屋には何もなくガランとした空間だけが広がっていた。
見渡す限り冷たい石の壁と床ばかりで。
地下特有の底冷えのするような冷えた空気が。
まる で。

あの刺すように冷たい雨の日を。

報われることのなかった想いが眠るあの石造りの冷たい家を。

血の気の失せた冷えた女の手を。

思い出すようで―――。



いつの間にか背中に硬く冷たい感触が広がっており、壁にもたれかかっていたことに気づく。壁から背を離せば埃が舞い上がった。ふと見下ろせば漆黒の神父服は埃のせいで斑に染まり、ため息をつきながら再び階段へと戻る。
掃除をするならば道具を持ってこなければならないし、ひとまずこの埃まみれな状態をどうにかしたい。
階段を踏む足音が冷たい部屋に響く。石畳の硬い感触と薄暗い部屋。引きずられる何かをそのままに、明るく日の射す中庭に戻った。
振り返る地下室は相変わらず日が差し込まず、私は扉が閉まらぬようにつっかえをしてその場を後にした。
女を思い出すと意識がぶれる。定まらぬ足場に立っているような気分になるのは、あの試みが最後の賭けであったからだろうか。報われなかった事実が、予想以上に私の中で落胆を生んでいるのか。
それとも何か、避けなければならない事柄でもあるというのか。
ふと、そう疑問に思いながら、結局私は答えを出さずに思考を打ち切る。この問いに答えを出す意味などない。
女との生活で得られる物は無かった。欲しかったものは手に入らなかった。
既にふと過ぎるのは最後の日ばかりで、それ以前の女をよく思い出すことは出来ない。いずれあの輪郭すら朧げになり、忘れていくだろう。



ただ、最後の声だけは今も耳元で響き続ける。




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ド・リーム。
若言峰には夢を大量に見させていただいております。
言峰はオルテンシアさんと過ごした生活のこととか、輪郭や体つきとかほとんど忘れてしまっても、最後に言われたあの言葉(声)だけはいつまでもいつまでも覚えてるといい。
名前を忘れてしまっても、それだけは覚えているといい。
(言峰、記憶力は良さそうですけどね。でも逆にオルテンシアさんだからこそ、無意識的にどんどん記憶を消していってたらそれはそれで萌えるなぁ)
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